ー緑道にてー
老人の杖がせわしなく
風媒花を揺する
ハーモニカを吹きながら
初老の男が通り過ぎる
マスクをしたまま 歌いながら歩く
往年のソプラノ歌手
主を振り返ることもない
機械仕掛けのような老犬
大きな犬を連れた小さな女
小さな犬を連れた大きな男
車椅子の犬が元気よく通り過ぎると
どこからともなく現れた白髪の男が
その後を追う
連れ添う犬よりも早く逝くだろう老女と
老人より早く逝くだろう老犬と
いつ倒れても不思議ではない老人と
いつ轢き殺されるかも知れぬ元気な子犬と
マテバシイの樹の下で二台のブランコが
風もないのに揺れている
2015年 4月某日