76.緑道にて

 ー緑道にてー

老人の杖がせわしなく

風媒花を揺する

ハーモニカを吹きながら

初老の男が通り過ぎる

マスクをしたまま 歌いながら歩く

往年のソプラノ歌手

主を振り返ることもない

機械仕掛けのような老犬

大きな犬を連れた小さな女

小さな犬を連れた大きな男

車椅子の犬が元気よく通り過ぎると

どこからともなく現れた白髪の男が

その後を追う

連れ添う犬よりも早く逝くだろう老女と

老人より早く逝くだろう老犬と

いつ倒れても不思議ではない老人と

いつ轢き殺されるかも知れぬ元気な子犬と

マテバシイの樹の下で二台のブランコが

風もないのに揺れている

 

                                                2015年 4月某日

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