「ジェラール・フィリップへの愛ゆえに」
「北をめざす2人のおばさん」
ー平山演出作品についてー
演出家の平山氏は「ジェラール・フィリップへの愛ゆえに」という作品で、彼自身が持っているひとつの世界を提示した。この作品は2年前(2007年「私もカトリーヌ・ドヌーブ」の初演時)次回作品について東京の橋の上で平山氏とプロデューサーと話している時に書こうと思った作品である。彼の戯曲の解釈は繊細で、時にメランコリックである。銀座の劇場で上演された「背中にナイフ」の時のように新たな未知なるものへの道程である。「ジェラール・フィリップへの愛ゆえに」は内的冒険であり、激しく相対する世界の中でひっくり返されしまった一己(イッコ)の運命の物語である。何ものでもないよりは何かを生きるために偏狭な家庭を捨て、サーカスや化け物達の世界へ、偉人が考え出した道に向かって旅立つ。平山氏と出演者達は、優美さとユーモアを交えながらその物語の流れを作った。明快で力強い場面に従って物語は軽快に進行する。私は、どんな感情も強いることをしないだけの、その繊細さ、解釈の質に非常に感動した。その物語は、透明で、しかもそのイメージはその軽快さをもしのいでいる。平山演出は創意を息づかせながらも、原文に限りない敬意を示している。その同じ熱情が「北をめざす2人のおばさん」の中にも現われている。平山氏はいくつかのキューブによる単純化、綿密な照明によって全く異なった、対立する空間のイメージをうまく演出した。警察署の場面、カフェ、墓場、車、劇場、エレベーターなどが舞台上に現れた。豪華な宝石箱。この空間の中で2人の非凡な女優は、和解、不和、2人の年老いた姉妹の最終的な、無制約な愛情を演じた。彼らの関係のすべての様相が舞台上に、そして長く、美しく、メランコリックで優しいダンスの中に具体的に表れている。彼らが喪の悲しみを受け入れることで、ついには彼らの両親の亡霊と慣れ親しむことで終わる。
私は東京の両国のシアターχで、日本で創られた私の戯曲を観る機会を得、平山演出の作品を観るという栄誉を得た。
(2009年5月12日)
ピエール・ノット
劇作家 国立コメディ・フランセーズ事務局長
※ ピエール・ノット氏は「私もカトリーヌ・ドヌーブ」で2005年度モリエール賞受賞、「北をめざす2人のおばさん」で2009年度モリエール賞ノミネート(4・25現在)。この「北をめざす2人のおばさん」は2010年度フランスでは巡演が決定している。 ーピエール・ノット氏についての詳細は「五叉路」でも取り上げている。ー
≪付記≫
ピエール・ノット氏の上記の文章(原文)を読んだ仏文学者で翻訳家の中條忍氏(青山学院大学 名誉教授)からのメッセージ。中條忍氏は今回の「北をめざす2人のおばさん」の翻訳者でもある。
〇 「よかった。ほんとうによかった。実に良く平山さんの特徴をとらえ、高く評価しています。僕までうれしくなります。ますますのご活躍を祈念しています。」
〇「ジェラール・フィりップへの愛ゆえに」、感激しました。(Sadrine Grataloup氏ーフランス劇作家・作曲家協会 パリSACD Head of international Promotion )
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