53.今を生きているつもり

 未来に対する不安に脅かされるか、過去の懐かしさに浸るか、あるいはそのような未来と過去のフラッシュバック中を行き来しているのでは到底「今を生きる」ことなど不可能である。だから現実に存在する唯一の時を見逃してしまうのである。「私たちはまったく生きていない。ただ生きようとしているだけだ。」と言われても明解に答えることができないどころか、「生きようとする」こと自体に何か問題があるのかというレベルの話に終始するだけであろう。そこにはやはりいつも幸福になりたいと思っていてもついには幸福になれないのと同様の問題点が隠されている。

 「今を生きる」ということなどはそう簡単には実践され得るものではないということは、「今を見る」などということも飽くまで見ているつもりであって実は肝心なことは何も見えていないことの方が遥かに多いということでもある。今後は視野の中で知覚されていたものですらいつの間にかその姿を消されていく可能性が高いのであるから尚更であろう。想像力が貧困であればもはや盲目状態の中に置かれるといってもよい。

                                                                                                                                                                                    2015 4/12

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