「おっさん、また豆かよ!」という若き日のクリントイースドウッドの声とともにウィッシュボン役の永井一郎の声が響き渡る。「食いたくなけりゃ、食うな!まともに昼飯時に食えるだけましだと思えこの罰当たりが」、実にこの老料理人にぴったりで原語で聞くほどでもない。クリントイーストウッドの声(山田康雄)にも違和感がない。俳優が声の出演をしていると言った方が適切な時代でもあった。今のように俳優とは別に「声優」が切り離されて独立して成り立つような時代でもなかった。だから、特に違和感を感じないですんだのであろう。永井一郎は俳優でもあったが声という領域に自分をより自由に解放できた一人なのである。「ゲゲゲの鬼太郎」、「じゃりん子チエコ」、「サザエさん」の波平役は一般的に知られるところである。
私は以前、永井さんの舞台の演出を手伝ったことがあるが、それ以来毎年年賀状を戴いている。今年の年賀状には「良き年でありますよう!」と毛筆で書かれてある。
1月27日昼ごろ、広島市のホテルの浴槽で倒れているのを発見されたらしい。何年か前の年賀状に「老体に鞭打ち、全国を飛び回っています。」というのがあったが、最期まで声の出演者として活動していらっしゃたのであろう。永井さんは大島渚と京都大学の同期生であったはずである。両氏の元気な時を知っている者にとっては改めて「時」の本態というものを思い知らされる。
永井さん、お疲れさまでした。
あなたが死に見舞われた時、
私はどういうわけか多摩川の水面を見つめていました。
永井一郎氏のご冥福をお祈りいたします。
2014 1/29