毎年招待状と一緒にくる演劇祭のパンフレットの中に、ある演目の解説として「絵空事ではない実人生の叫びが発露したもの」というのがあったが、指示内容が不鮮明なのでつい気になってしまった。要するに分かったような分からないような内容なのである。「嘘」ではない「現実」の「実際」の人生の叫びが湧き上がったものとでも言いたいのであろうが、それが何とも危ういのである。人生の中に敢えて「(実)人生」を措定する以上「(虚)人生」というものの領域もあるのであろうがそこら辺の明確な説明がない。あらゆるアートは「絵空事」を免れない「虚」であると同時に「真実」を語り得る、あるいは「真実」の波動を伝えるものでもある。「現実」の「実際」の人生から直接「叫び」などは生じない、そこにあるのは「呻吟」だけである。それは人生が過酷であればあるほどそうであろう。「絵空事ではない実人生の叫び」などはたとえあり得たとしてもそれが「真実」というには不充分である。現代社会が必然的に抱え込む「歪み」、すなわち「貧困」、「格差」、「ホモセクシュアル」、「レズビアン」、「ドラッグ」etc,そのような状況の中で「歪み」を背負わざるを得なくなってしまった者達の「叫び」というのであれば少しは具体的に見えてはくるが「実人生の叫び」だけでは何も見えてこないのである。「実人生」などというものが人生の片隅で真実顔で存在し得るものではないからである。
2013 4/23