何時だったか、入院中の映画監督・大島渚の「悲惨」な痛々しいまでの映像が映し出されて、何と残酷なことをするものだとまたテレビ関係者の節制のなさ、スタンスのなさを呪ったものだが、彼が「愛のコリーダ」に続く「愛の亡霊」という作品を作った時に「私はこの作品で愛の根も茎も葉も花も描いた」と言い切ったことを思い出した。原作者・中村糸子から送られてきた本「車屋儀三郎殺人事件」に感動したことがこの映画を作るきっかけとなったと大島自身も語っている。そして、その本とともに添えられていた原作者からの手紙には「『愛のコリーダ』をおつくりになった大島さんにはわかっていただけるでしょう。あの暗い明治の日本にも愛はあったのです。」と書かれてあったという。この作品は、実際にあった事件を題材にしている。この事件のあった近隣には長塚節も住んでいて、この事件を小説の題材にしようと思っていたらしいが、果たせずして夭折してしまったという曰く付の事件でもある。
夢と現を浮遊する大島が妻に向かって呼びかけ、訴え続けるものは・・、「生ける精霊」は今那辺にありや・・・根か・・茎か・・葉か・・それとも花か・・・・・
※「愛の亡霊」(日仏合作) 1978年カンヌ映画祭最優秀監督賞
2011 11/11