この本は2004年に出版された橋本ルシア氏の著作であるが、出版当初から各界の著名人からの反響があった本で、名著とまで言わた本である。今やフラメンコ関係者はもちろんのこと、それ以外のジャンルの人々にもかなり浸透していて、その言動の端々からこの本の影響が感じられる。中には出典、出自も書かずあたかも自分で考えをまとめたかのような文章もあるが、2004年以前には橋本氏以外に誰も言ったことのない事柄なので少し調べればすぐに分かることである。それから、「噂のような批評、批評のような噂」のような訳の分からないブログ(どこの誰が何を根拠に書いているのかまったく不明)で、本書の内容について「啓蒙的」な面と、「恣意的」な面を言っていたが、「恣意的」と言うのは、根拠もなく意図的にある処へ持って行くことで、本書のようにきちんと根拠を挙げ論理展開している場合はまったく当てはまらない。もしそれすら「恣意的」と言うのなら、科学的推論もすべて「恣意的」ということになってしまう。また、「学者が学者に向かって言っているような」という表現もあったが、もしそうなら彼女のことである、もっと難しくなっていたことだろう。橋本氏はそこのところをきちんと押さえて、限界の中でできるだけ分かりやすい表現を使ったのである。
ともあれ、橋本氏と何十本もの舞台を共に創ってきて、それらの舞台を通して橋本氏が本書のような豊かな内容に結実させたことは喜ばしいことである。
※本書の書評につては、濱田滋郎氏(音楽評論家)がきちんと,ポイントを押さえた丁寧な書評を書いている。その全文は橋本ルシア氏の公式サイトにも載っているので参考にするとよいと思う。評論というのは普通はこの位は切り込んだ、また切り込める素養がある人が初めてできることである。
※この本を読んで著者に会いに来る人達が今も跡を絶たない。「どういう方なのか1度会っておきたい」というのがその主な理由である。中には刑務所でこの本を読んで感動して、出所してから会いに来た人もいた。その人は今は立ち直り、働きながらどこかでフラメンコに打ち込んでいるらしい。そして、彼は橋本ルシア氏のことを「フラメンコの母」と呼んでいるそうだ。改めてこの本の懐の深さを感じた出来事であった。
この本に関してはフラメンコ関係者はもとより、音大生が研究論文を書く上でものすごく参考になったこととか、まったく違うジャンルからの賛辞も多い (2010 2/10 加筆)
※この著作が上梓された2004年にアントニオ・ガデスがマドリッドで亡くなった。1987年にアントニオ・ガデスが「血の婚礼」(原作 ガルシア・ロルカ)の本邦初演を行った時、それに先立ち朝日新聞紙上で逢坂剛氏(作家)と橋本ルシア氏がアントニオ・ガデスについて対談している1ページ分の記事がある。参考までに掲載する。
<2010 2月追加>