47.「アンパンマン」やなせたかし氏のこと

 私は漫画をほとんど読まないが、やはり印象深い奥の深さを感じさせる漫画家は何人かいる。やなせたかし氏もその一人である。かなり以前のことであるが、私はやなせさんと彼のアトリエでお会いしている。その時は某演出家と一緒で芝居のポスターにやなせさんの漫画を使うことについての打ち合わせであったと思う。その内容の仔細についてはほとんど忘れてしまったが、「ピノキオ」の話になった時に彼が微笑みながら「今、『人間』になりたいなんていう願望がほんとうに成り立ちますか、むしろ逆じゃないですかね」というようなことを言ったことだけが鮮明に甦ってくる。その感性は今なお生々しい。私は、その時、この人は漫画家云々以前に「ただ者」ではないと感じたのを今でも覚えている。寺山修司の児童演劇も変に子供に媚びることはなかった。J・K・ローリング然り。単に子供向けの子供が喜びそうなという意図で、あるいは教育目的で作られた大人の「子供世界」などというものは、そこに作者の「思いの丈」がにじみ出ていなければやはり子供の感性にも届かず、簡単に放り投げられてしまうのである。

 やなせたかし氏も最近お亡くなりになった。ご冥福をお祈りいたします。

※「ピノキオ」:イタリアの作家カルロ・コロディ作の児童向け物語(1883年刊)。気まぐれな木製の人形が仙女に導かれていい子になる努力をし人間の子供になるという冒険物語。

                                                  2013 10/16

 

                                                      

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